電子コミック全盛、出版社の本音
エンタメNEWS2024年12月10日8:40 AM
電子コミック隆盛の今、多くのマンガサイトやアプリが存在し、好みに応じて複数を使い分ける人も多いだろう。一方、マンガを生み出す出版社側は、このような現在の状況をどう見ているのだろうか。かつては「マンガは紙で読むもの」が出版業界の“常識”でもあったが、様相はまったく変わっている。早くから電子コミックに取り組んできたKADOKAWAに、出版社の葛藤、そして世界に向けた電子コミックの施策を聞いた。
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■「紙か、電子か」黎明期は出版社にも葛藤、作家や編集部から懸念も
日本のマンガ市場が4年連続で過去最高を更新している。その7割を電子コミックが占めており、手元の電子デバイスでマンガを読むというライフスタイルもすっかり定着した。
電子コミック発のヒット作も続々と誕生しており、今や電子書籍ストアと出版社は切っても切れないビジネスパートナーとなっている。とはいえ、かつては「マンガは紙で読むもの」というのが長年の常識だった。黎明期より電子コミックに前向きに取り組んできた出版社・KADOKAWAでも、「紙か、電子か」の葛藤はあったという。
「当時はスマホが登場する前のガラケーの時代。黎明期の電子コミックは小さな画面に1コマずつ切り分けて配信されるスタイルでしたから、やはり見開きによる豊かなマンガ表現にこだわる作家さんには抵抗感があったはずです。またコミック編集部からもセキュリティ面への不安など、さまざまな意見が出ました。しかし、技術の進歩や課題への理解が深まることで、こうしたハードルは超えられるはずだとも考えました」(KADOKAWA デジタル営業局 局長 芦尚文氏)
そうした確信のもと、作家や編集部の調整に奔走。20年前、いち早く「ケータイでマンガを読む」サービスを開始したコミックシーモアに対し、2014年に2万冊を卸すに至った。一方、ラインナップの充実は「ケータイでマンガを読む」層を伸ばすことにも繋がった。まさに出版社と電子書籍ストアがWin-Winの関係を歩み出したわけだ。
「売上はもちろん、“手元で気軽に読める”ことで今までリーチできなかった層に作品を届けられるのは作家さんにとっても大きな魅力だったようです。その後、スマホの登場でより大きい高精細な画面でマンガを読むことが可能になり、電子コミックに前向きな作家さんもどんどん増えていきました」(芦氏)
一方で、電子書籍ストアやマンガアプリが群雄割拠する今、ユーザーにとっては「どのストアがいいのか迷う」といった声もある。こうした現状をマンガを送り出す出版社側はどのように見ているか。
「まず、読者の選択肢が増えるのは良いことだと思います。マンガの読み方も以前はコミック雑誌あるいは単行本だけだったのが、話売りや読み放題など多様になったことでマンガへの入り口は確実に広がりました。1つのプラットフォームでは多様化は実現できません。それぞれのストアやアプリが独自のアプローチでマンガの届け方を工夫されており、それによって作品へのリーチが増えるのは、出版社にとってもありがたいことです」(芦氏)
電子コミックの登場によって定着したマンガの届け方が“無料施策”だ。それまでマンガは「お金を出して購入するもの」だっただけに、出版社側として抵抗はないのだろうか。
「無料施策は、読者に未知の作家や作品と出会う機会を提供する販促手法です。その先でファンになり、購入していただければベストですが、まずは導入ハードルを下げるという意味で無料で読んでもらうことには効果があると感じています」(芦氏)
■実は出版社より電子ストアのほうが読者に近い? 熱量が生む“手書きポップ”と同じ効果
電子書籍ストアやマンガアプリには、リアルの書店以上に無数のマンガが並ぶ。どの作品が自分に合うのか読者も迷いそうだが、芦氏は「だからこそユーザーに近いストアの知見に我々も助けられている」と語る。
「たとえば無料施策を行った際に、読者が何話まで読んでどこで離脱したかといったデータまでは出版社は追い切れません。また広告についても、どの絵柄を切り出した時に最もクリックに繋がったかといった分析力は電子書籍ストアならではの知見。ある意味、出版社より“ユーザーに近い”と言えるのかもしれません」(芦氏)
近年はそうしたストアのノウハウが、マンガ作りに生かされることも増えているという。たとえば、『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』(KADOKAWA×コミックシーモアの協業作品)という作品では、広告映えするキャラクターの表情など、書店ならではの観点のアドバイスが随所に盛り込まれ、連載開始すぐに総合ランキング1位を記録するヒット作となったという。
「やはり、読者と作品との的確なマッチングに特に長けた電子書籍ストアは強いと感じています。データに基づくマッチングもさることながら、書店員さん自身が作品を読み込んでくださっているストアは心強いですね。たとえば『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから』という作品は“スタッフ全力推し!!”という特集で魅力的に紹介してくださった結果、売上が9倍以上伸びました。リアル書店でも書店員さんの手書きポップからヒットに繋がる例があるように、作品を届ける側の熱量の高さは、データを超えて読者に響くのだと思います。とくにコミックシーモアさんにはそれを感じます」(芦氏)
そうした作品を届ける側の熱量は、マンガのグローバル展開にも影響しているようだ。グローバルといえば、ひと頃「日本のマンガはガラパゴス」「海外展開にはwebtoonじゃないと読まれない」とまことしやかに囁かれたが、その先入観にも変化があるという。
「見開きマンガを読むにはある種の読解力が必要ということもあり、10数年前まで海外では日本のマンガはニッチな存在でした。しかしアニメ配信サービスの普及に伴い、ここ数年、原作マンガの売上が世界中で飛躍的に伸びているんです。多少読みにくくても読みたいというモチベーションから、見開きマンガの読み方を“学ぶ”方も多いのではないでしょうか。もちろんwebtoonにも魅力はありますが、日本のマンガはまた別物という認識が広がっているのを感じます」(KADOKAWA グローバル電子書籍事業室 室長 栗本直彦氏)
アニメをきっかけに日本のマンガを受け入れる土壌が世界に育ちつつある今、次に目指すのはボーンデジタル、つまり電子コミック発のグローバルヒットを生み出すことだ。
「アニメから原作マンガに入った層は、必ずしもそれ以外のマンガを読むわけではないという傾向が、特に海外では顕著に見て取れます。一方で電子コミックから入った層は、他のマンガにも手を伸ばす傾向にある。つまり“真のマンガ好き”に育ってくれるんです」(栗本氏)
近年、KADOKAWAではライセンスアウト(海外の出版社に翻訳や流通を任せる)だけでなく、自社で翻訳を手掛け、電子コミックとして配信するといったデジタルファーストの施策に注力している。
「当初は自社プラットフォームの『BOOK WALKER Global』でそうした取り組みを行っていましたが、次第に『Manga Plaza』(※)などの電子書籍ストアでも展開するようになりました。前述の『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』は、英語版も非常に好調な売上を記録しています」(栗本氏)
※コミックシーモアを運営するNTTソルマーレが展開する全米最大級のデジタルマンガストア
翻訳にしろ流通にしろ、その作品の魅力を熟知した上で手掛けたものは、海外の読者の反応もいいと手応えを語る。
「それは、電子書籍ストアさんも同様です。海外のプラットフォームは、『このマンガのどこが面白くて、どの層に刺さるのか?』など、1作1作を丁寧に売ることはしてくれません。海外の方にも伝わるのは、やはり作品への熱量と“目利き”の力。それは日本国内と同じなのです。今後はさらに『Manga Plaza』など日本の電子書籍ストアと協力を深め、ボーンデジタル作品のヒットを生み出したい。日本の豊かなマンガ文化を世界に定着させていきたいと考えています」(栗本氏)
(文:児玉澄子)
ORICON NEWS(提供:オリコン)
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カテゴリ
アニメ
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