電車事故で億単位の損害賠償が認められたケースも!「電車事故による賠償」について弁護士に聞いてみた!
タレメREPORT2017年8月10日10:55 AM
2017年の春ドラマ『リバース』では、市原隼人さん演じる谷原康生がホームから転落し大ケガを負うシーンがありました。こういった電車事故は決してドラマの世界だけの話ではなく、現実のニュースでも良く目にします。通学電車に間に合わず学生が踏切に進入して電車事故に。痴漢を疑われた男性が線路に逃げ込み電車に轢かれて・・・。
ニュース自体がショッキングな内容のためか、その後の「電車事故による賠償」について触れられる事は少なく、私たちにその情報が届く事は少ないかもしれません。そこで今回は、そんな「電車事故による賠償」についての疑問を弁護士の先生にぶつけてみました。今回お答え頂いたのは、アディーレ法律事務所の篠田恵里香先生です。
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--記者
上記のように、ニュースで報道されているような電車事故でも多かれ少なかれ「賠償」というのは発生しているのでしょうか?
--篠田先生
法的には、「線路に立ち入った等の行為によって、電車の運転見合わせ・遅延を発生させた」場合には、「故意または過失によって鉄道会社に損害を与えた」という評価になり、民法709条の不法行為が成立します。この不法行為に基づいて、行為者が鉄道会社に対し賠償責任を負うということになります。
実際に鉄道会社が、毎回賠償請求をおこなっているのかは不明で、請求するか否かはケースバイケースとしか言いようがありませんが、請求しても回収できないという判断から、実際には請求しないというケースも少なくないのではないかと予想します。
--記者
鉄道事故による賠償は、とてつもなく高額だという話を良く耳にします。ちなみに、その場合の賠償とは誰から誰への賠償という事になるのでしょうか?また、その賠償額はどのように算出され、一般的にどのくらいの金額になるのでしょうか?
--篠田先生
賠償金は、線路に立ち入る等の不法行為を行ったその人間から、損害を被った鉄道会社に対して支払うべきものとされます。ただ、その行為者が死亡してしまった場合はその相続人、その行為者が認知症等の責任無能力者であった場合にはその監督義務者等が責任を負うことになります。賠償額は、「事故によって、列車の運行停止・遅延等が生じ、これにより鉄道会社に生じた損失額」となります。
具体的には、他の鉄道会社に支払う「振替輸送」の代金、旅客の対応に必要となった追加の「人件費」等が損害となります。遅延の状況や当時の混雑状況等によって異なりますが、通勤時間帯や、主要な駅・大規模な駅などで、鉄道を利用する人員が多ければ多いほど、大幅な遅延や振替が必要となり、場合によっては数千万円~億単位の損害が生じる可能性があります。
有名な過去のJR東海の事件を例にとると、上下20本の列車に約2時間の遅延を生じたケースについて、振替輸送534万円、人件費約185万円の損害が生じたという計算がされていましたが、過去には、車対電車の事故で1億を超える賠償が認められたケースもあります。
--記者
ちなみに、故意に電車事故を引き起こした場合、おそらくそれは犯罪として扱われると思うのですが、具体的にどのような罪状で、どの程度の罰則が科せられるのでしょうか?過去の事例などありましたら、それも踏まえて教えて頂けますでしょうか?
--篠田先生
電車の運行を妨害する行為については、
「往来危険罪(刑法125条)=鉄道・標識を損壊する等の方法により電車の往来危険を生じさせる=2年以上の懲役」、
「汽車転覆等及び同致死罪(刑法126条)=人が乗車している電車を転覆・破壊する=無期又は3年以上の懲役、これによって人を死亡させる=死刑又は無期懲役」、
「過失往来危険罪(刑法129条)過失によって、電車の往来の危険、転覆、破壊等の結果を生じさせる=30万円以下の罰金」
といった犯罪が成立します。
また、鉄道会社の業務を妨害したという意味では、「業務妨害罪」、鉄道事故により、人を怪我させた、死亡させた行為については、仮に故意がなくとも、過失致死傷罪、重過失致死傷罪等の罪に問われることになります。
過去には、鉄道会社の軌道敷内に、角材及び園芸支柱等を投げ入れて放置した事例につき、1)貨物列車を緊急停止させて鉄道会社の運行業務を妨害した、2)角材等の撤去作業等に職員らを従事させるなどの業務妨害をした、ということで、往来危険罪、威力業務妨害罪の成立を認め、懲役2年執行猶予4年を言い渡した事例があります。
--記者
逆に、鉄道会社側の責任で起こってしまった鉄道事故の場合、被害者や遺族に対しての賠償というのはあるのでしょうか?また、その金額や算出根拠、もしくは事例などについて教えて頂けますでしょうか?
--篠田先生
鉄道会社側の責任で、鉄道事故が起きた場合、逆に、被害者や遺族に対して、鉄道会社側が賠償金を支払う義務が生じます。過去には、東京都品川区のJR山手貨物線で保守工事中の作業員5人が回送中の列車にはねられて死亡した事故で、JR側から工事を請け負った会社側が慰謝料等の名目で、総額2億1700万円余を支払う和解が成立しています。
滋賀県信楽町で死者42人を出した信楽高原鉄道事故では、犠牲者9人の遺族が損害賠償を求めた訴訟において、約5億1000万円の賠償を命じた高裁判決が確定しています。
有名な福知山線脱線事故では、JR西日本側と、遺族・負傷者との間で、その金額は明らかではないですが、賠償金に関する合意が成立しているようです。
この賠償金は、怪我の場合でも、「通院慰謝料」「休業損害」「後遺症に関する慰謝料・逸失利益」等が含まれ、重大な負傷の場合は、1人当たり1000万円を超えることも少なくありません。不幸にも死亡してしまった場合には、「死亡に関する慰謝料」と、将来稼げたであろう収入を計算した「逸失利益」が主として賠償されるべきで、1人につき5000万円を超えることも少なくありません。
鉄道は便利な反面、いったん事故等がおきると大惨事になりますので、鉄道会社側も利用者側も、「安全」を常に心がけていただきたいですね。
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というワケで、今回は「電車事故の賠償」について、弁護士の篠田先生に色々とお話を伺いました。確かにその損害額から高額賠償自体はありえるようですが、実際にそれほどの損害請求がされるケースは少ないようです。とはいえ、大規模な交通機関に迷惑をかければそれ相応のリスクを背負う事になるのは間違いありません。ホームでの悪ふざけや歩きスマホなど、転落などの恐れがある行為は絶対にやめましょう。
・取材協力
篠田恵里香(しのだえりか)弁護士(東京弁護士会所属)
弁護士法人アディーレ法律事務所