待ち伏せ、盗撮、不法侵入!ストーカーとは何が違う!?「マスコミの取材」について弁護士に聞いてみた!
タレメREPORT2017年7月3日3:15 PM
2017春ドラマ「100万円の女たち」はご覧になりましたでしょうか?最後の最後まで謎を抱えたまま、ドキドキさせ続けてくれた名ドラマでした。ロックバンドRADWIMPSのボーカル野田洋次郎さんをはじめ、個性豊かな役者さんたちの魅力に撃ち抜かれた視聴者も多かったのではないでしょうか?
同作でも主人公宅にマスコミが押し寄せ、心無い言葉を浴びせるような描写が何度も描かれています。また、日々のワイドショーでは、一般人では到底ありえない、我慢できないような芸能人への取材の様子が、平然とテレビ画面に映し出されます。そんな状況を皆さまは不思議に思った事はありませんか?さすがにこれは犯罪じゃないのか?と。
他人の意志や意向など関係なく、一個人に付きまとい写真を撮り音声を録音し不特定多数に対して公開する。普通にこれを一般人がおこなったらどうなるのでしょうか?
今回は、そんな「マスコミ取材」に対しての疑問を弁護士の先生にぶつけてみました。今回お答え頂いたのは、アディーレ法律事務所の時光祥大先生です。
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--記者
特定の人を執拗に追い掛け付きまとい、本人には気付かれないように写真や音声を記録し、その写真や音声を不特定多数の人に勝手に公開する行為。これを仮に私たちがおこなったら、どのような罪に問われるのでしょうか?
--時光先生
まず、多くの方が、ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)違反になるのでは?と思われたと思います。ただ、この法律が処罰する行為は、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」(2条1項柱書)、つきまとい等を繰り返すことです。
このため、恋愛感情等が元になっていなければ、そもそもこの法律では処罰されません。探偵が浮気調査で尾行をしても、ストーカー規制法違反にならないのは、このためです。
では、単につきまとうだけでなく、写真撮影や録音をおこなった場合はどうでしょうか。写真撮影を処罰する法令として、各都道府県の迷惑防止条例がありますが、これは「公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体」の写真撮影を処罰するもの(東京都の迷惑防止条例より)で、路上で衣服の上から撮影してもこの条例違反にはなりません。また、録音だけを処罰する法令は特にありません。
ただ、その写真や音声をインターネット上など不特定多数の人に勝手に公開した場合は、名誉毀損罪(刑法230条1項)になる可能性がありますので注意が必要です。また、嫌がらせ目的などでおこなった非常に悪質な付きまといによって、相手が精神疾患になってしまった場合などは傷害罪(刑法204条)になる可能性もないわけではありません。
さらに、犯罪にはならなくても、プライバシー侵害で損害賠償請求(民法709条、710条)をされる可能性もあります。浮気調査など正当な目的があるなら別ですが、嫌がらせや好奇心で付きまとうことはやめましょう。
--記者
ドラマやワイドショーなどでも良く目にするマスコミの取材風景はまさに上記の行為と変わらないように思えるのですが、これは法的にマスコミ取材にのみ許されている行為なのでしょうか?もしくは取材される側(芸能人か一般人かなど)の立場によっても、対応が変わってくるものなのでしょうか?
--時光先生
すでにご説明したように、一般人が行っても犯罪にはならないことが多く、法的に特別マスコミが許されているというわけではありません。ただ、相手が芸能人であるか、一般人であるかは難しいところです。色々と議論のある問題ですが、顔を売ってなんぼの芸能人であれば、写真撮影や公開について、一般人よりも受忍すべき範囲が広いとの考え方もあります。
もちろん、撮影のために住居に侵入したり(住居侵入罪、刑法130条)、揉めて暴行したり(暴行罪や傷害罪、204条・208条)した場合などは話が別です。取り囲んで動けなくした場合は、逮捕監禁罪(220条)にもなり得ます。また、写真を週刊誌に掲載した場合も、名誉毀損罪(230条1項)になる可能性もあります。この点も一般人がおこなうのとあまり変わりはありません。
--記者
改めて、「報道の自由」や「知る権利」など、個人のプライバシーと相反する(ように思える)権利について、法的見解を教えてください。
--時光先生
まず、報道の自由、知る権利は、本来は政治に対する権利として考えられてきたものです。政治家が不当な行為をした際にマスコミが報道をしても処罰されないこと、国民はそれを知るために政府に対して情報開示を求めること…こういった人権として発展してきたものです。
これは法律家の中でもとても意見が分かれるところですが、政治とは関係のない芸能人の私生活を報道する自由、知る権利はまったく保障されていないとの見解もあります。芸能人であっても、尊重されるべき個人であることに変わりはありませんので、個人のプライバシーも最大限尊重されるべきと考える法律家も多いです。
--記者
最後にひとつ。仮に、私がマスコミから追われるような立場になってしまった場合、追われる側はどのような法律や権利を持って、マスコミの取材から逃れれば良いのでしょうか?法律的に対処する方法が具体的にありましたら、是非教えてください。
--時光先生
すでにご説明したように、マスコミの行為は犯罪とならないことも多く、マスコミもそれを知っているので、なかなか対処が難しいところがあります。例えば、信頼できる友人宅に逃げ込み、もしマスコミが友人宅に侵入すれば住居侵入罪といった犯罪になる状況を作り出すことも手段ではないかと思います。
また、犯罪にならなくても、プライバシー侵害で損害賠償請求できることもありますので、弁護士などの専門家に相談に行き、抑止力も兼ねて訴えてみるというのも手段だと思います。
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というワケで、今回は“マスコミ取材”について、弁護士の時光祥大先生に色々とお話を伺いました。そもそもストーカー規制法とは、「恋愛感情」が発端になっていなければ適用される法律ではないとの事。また、迷惑防止条例においては衣服着用であれば条例違反に当たらないとの事。なんとなく当たり前に法律で守られていると思っていたことがまったく守られていない状況に驚きが隠せません。
勝手に他人を追い回し付きまといプライバシーを盗み公表する行為が普通に法的に許されている世の中を、異常に感じる事の方がおかしいのでしょうか・・・。
・取材協力
時光祥大(ときみつしょうた)弁護士(東京弁護士会所属)
弁護士法人アディーレ法律事務所